前回の記事で、近年の中学受験においては塾の内容をしっかりこなしていれば合格できるという時代はすでに終わっているということを書きました。塾が教える内容と中学側が求める内容に乖離があるため、塾のみというスタンスだと模試ではいい成績は取れるけども過去問・入試本番では点を取れないわけです。
そのため、塾を信じてコツコツやって、塾のテストや模試を指標に頑張ってきたのに、本番で成果を出せないという傾向が年々増加しています。(前回の記事はこちら↓。)
今回は、塾にひそむもうひとつ懸念点について書いていきたいと思います。
それは、塾(とくに集団塾形式の授業を行う塾)に長年通うことによってかなりの割合の生徒さんに「悪いクセ」がついてしまうという点です。そしてその悪いクセが、慶應付属3中学を始めとする上位校や進学校受験にとって「致命傷」となってしまうのです。
今回はそういった「致命傷」について見ていきましょう。よかったら、最後まで読んでみて下さい。
塾(特に集団塾)では数多くの「致命傷」が生まれてしまう。
個別指導の先生や家庭教師の先生の方々にはだいぶ共感してもらえるかと思いますが、集団塾のみで学んできた子どもには共通して、学習するうえでかなりのネックになる「悪いクセ」が身についていることが多々あります。その「悪いクセ」の中でも特に多いのが、以下の3つです。
- 「コピー機化」
- 「短答式人間化」
- 「思考停止人間化」
具体的な内容はこのあと書いていきますが、これらはすべて集団塾という受け身の形態だから生まれてしまうもので、そして年間を通してその受け身の授業を日々受け続けることで子供の中に固定化していきます。これはいわば、毎回毎回悪習慣の復習をしているようなもので、子供たちの中でどんどん固定化していってしまうんです。
そしてそれを取り除くことが本当に大変なんです。この状態になっていると成績が思うように伸びなくなり、いずれ志望校に届く見込みがなくなっていきます。すると受験直前期に慣れ親しんだ集団塾を辞め、個別指導塾・家庭教師に頼ったりするんですが、そこからの短期間でその悪いクセを取り除くことはほぼ不可能に近い。もっと早く来てほしかった!そしたらいくらでも修正できたのに!と個別指導塾・家庭教師の先生はみな思うわけです。
でも、もしこの状態になっていたとしても、小6ならまだこれから本腰を入れ始める前の時期なので、まだ何とか間に合います。小5以下ならなおさら。
というわけで、今回は上記の3つの「致命傷」となる悪いクセについて見ていきましょう。これから慶應付属3中学を始めとする上位校・進学校を本気で目指す場合は、かなり参考になるはずです。
そして、その状態にならないためにはどうすべきか、もしくはその状態になっていた場合はどう対処すべきかを考えていきましょう。
集団塾で負いやすい3つの「致命傷」
致命傷その1 : 「コピー機化」
1つ目の致命傷は「コピー機化」です。
集団塾では、先生が教壇で授業内容を話して板書し、そしてそれを生徒がノートに書くという形式が一般的です。でもこの「ノートを書く」という作業をどうやっているのか、それが実はとても大きいんです。
賢い子は、授業を受けている時に意識を向ける先のパーセンテージは、
- 先生の話を聞く:80%
- 板書を参考にメモを取る:20%
くらいになっています。先生の話をベースに授業を受けていて、ノートはメモ代わりなんです。だから、授業ノートは大切なことを抑えつつササっと書いて、家に帰ったらそれを思い出しつつ丁寧にまとめる。そんな風に授業ノートと清書ノートを別にする子も多いです。
でも、なかなか成績の伸びない子が授業時に意識を向けることのパーセンテージは、
- 先生の話を聞く:20%
- ノートを板書通り正確に写す:80%
くらいになっています。つまり、先生の話よりも板書内容にばかり目が行っているんです。だから先生の話は片手間に聞いているから大事な部分をどんどん聞き流してしまう。これだと、いくら先生がいい授業をしていても、成績が伸びにくくなるわけです。
この状況になると、塾には板書を写しに行くだけのような状態になります。先生の話をちゃんと聞けていないから何も得られず、さらには自分の頭をほとんど通さずに板書内容をそのままノートに書き写すだけの日々になってしまうわけです。この状態を「コピー機化」と呼んでいます。
こんな風に、賢い子とそうでない子の間には、授業を受けるときのスタンスに大きな違いがあります。これを年単位で反復してやるわけです。どんどんと差が開いていくのは当たり前ですよね。
ちなみに、コピー機化しているかどうかのチェック方法は非常に簡単です。それは、
- 板書の1つの文章を書き写すときに、何回黒板(ホワイトボード)を見ているか。
を確認することです。
内容を把握していて、かつ板書をメモ代わりにしている子は、基本的には1つの文章を書き写すのに1回板書を見るだけで充分です。多くても2回くらいです。
でも、コピー機化している子は内容を把握できていない、かつ板書を正確にノートに書き写すことが目的になっているので、何度も黒板を見ます。文節ごとに黒板を見たりします。これは問題集を解いた後、解答を見ながら自分のノートに間違い直しをする時にも当てはまります。解答を何度も何度も見て、解答の文章をそのまま正確に書き写していたら、すでにコピー機化していると言えます。
致命傷その2 : 「短答式人間化」
2つ目の致命傷は「短答式人間化」です。
慶應付属3中学を始めとする上位校・進学校を受験する際にもっとも大きな「致命傷」となるのが、この「短答式人間化」です。(そしてこれが本当に多い。だから、一部の子しか上位校を目指すことができないんです。)
「短答式人間化」というのはどういうものか?これは塾の指導構成の欠陥により生まれるものです。
塾が作る問題は原則として、
- 単純な知識を穴埋め形式で答えさせる。
- 簡単な問題を記号・短答式で答えさせる。
- 難しい問題を記号・短答式で答えさせる。
- 簡単な問題を記述式で答えさせる。
- 難しい問題を記述式で答えさせる。
といったステップで作られることが多いです。ですが、初めて習う内容の場合は③までで授業を終わらせてしまうことが本当に多いんです。④・⑤の記述を全くと言っていいほどやらないことがざらです。
このことによって何が起こるのか?それは、問題のほとんどは記号や語句形式で答える形式のもので、記号・語句形式で答えることが普通だと生徒が思ってしまうんです。そしてそれとセットで「記述は難しい」「記述は難関校に行く人がやるもの」という意識がどんどんと育ってしまうんです。そうなると、志望校選択の際に「記述は苦手だからなぁ」なんて言って、記述型の学校を志望校から外そうとしてしまいます。
こんなふうに「記号・短答式が得意」で「記述は苦手」といった状態になることを「短答式人間化」と呼んでいます。
これは皮肉なことに、早い段階から塾に通っている子であればあるほど陥りやすい「致命傷」です。小3や小4から塾に通い、「短答式人間化」をどんどんと促進されているケースが非常に多い。
(でもこの状態が生まれるのはほぼ100%集団塾側に原因があります。そして、こういう状態になることによって、「記述対策」という講座の需要が上がるわけです。前回の記事と同様、塾がマネタイズの最大化を優先することのしわ寄せが、生徒に行くんです。)
この致命傷は、正しい学習法をできていれば簡単に避けられる。また、すでに陥っている場合も正しい学習法に軌道修正できれば脱却することができる。だから、そういった正しい学習法を臨機応変に取れる1:1の個別指導塾や家庭教師は、多少金額が高くても上位校を目指すご家庭に重宝されるわけです。
致命傷その3 : 「思考停止人間化」
そして3つ目は、「思考停止人間化」です。
これは大手塾が生徒の退会率を下げるために使っているロジックが原因で起こるものです。
「大手塾が退会率を下げるためのロジック」とは何か?まずはそこから見ていきましょう。
前回の記事でも書きましたが、大手塾の大半は過去問を「小6の夏休みまでは解かないように。」と伝え、過去問を解くのは9月以降となるようにしています。実はこれ、裏があるんです。
どういうことかというと、多くの塾において、夏休みまでのテキストの中に大量の過去問を小分けして散りばめているんです。たとえば、慶應中等部で過去に出た問題は、小6の夏休みまでのテキストの様々な場所に散りばめられています。
すると、何が起こるか。9月以降に過去問を解いたときに、一度やったことある問題だから結果としてある程度解けるんです。そしてそれを解いた受験生はこう思うんです。
「あ!この問題、夏休みのテキストで出てきた!」
「この問題は、1学期のテキストでやったぞ!」
「うちの塾のテキスト、慶應で出る問題がたくさんだ!」
「塾のテキストをもっとちゃんとやれば、合格点に行けるぞ!」
実は、これが大手塾の狙いです。「塾のテキストの問題、すごくたくさん入試に出てる!」「塾の教材の的中率、すごい!」。生徒さんや親御さんにそう思わせたい。そうすると、どんどんいろんな授業を取ってくれる。そういうロジックなんです。
でもこれって、実際は真逆。過去問をテキストに散りばめてそれを小6の夏休みまでにたくさん解かせる。そして9月以降に過去問を解かせることで、あたかも的中率が高いかのように錯覚させる。そういうメカニズムです。
そしてこの仕組みによって、最終的に「塾のテキストで出てきた問題だから解ける。」「塾のテキストでやったことがないから解けない。」という感覚に至る受験生がけっこうな割合でいます。中堅校までならオーソドックスな問題が多いのでこのスタンスでも大丈夫ですが、慶應付属3中学を始めとする上位校・進学校では「初見の問題に対してどうやってアプローチするか?」を問うてくるため、このスタンスは絶対的な「致命傷」になります。
これが、3つ目の致命傷の「思考停止人間化」です。
「致命傷」は一度身についてしまうと、その後はどんどんエスカレートしていく。
上で見たように、3つの「致命傷」は集団塾の指導形態・指導構成に起因しています。
かなりモチベーションが高く、能動的に授業を受けることを身に着けているお子さんの場合は、集団塾に通っていてもこの3つの「致命傷」を負うことは稀です。でも、基本的に小学生の段階でその水準に達している子は20%もいないでしょう。
これはすなわち、多くの小学生の場合、集団塾で学び続ければ学び続けるほどその「致命傷」を負いやすく、さらにはそれを毎回の授業ごとにどんどんとエスカレートしていきやすい、ということです。
「致命傷」をすでに負っている場合の対処法は?(特効薬はない。)
慶應付属3中学を始めとする上位校・進学校を目指す場合は、この「致命傷」をいかに負わないか、もしくは取り除くかがかなり重要になります。
中堅校以下に行きたい場合は、こんなことを意識しないでも合格まで行くこと自体は可能ではあります。でも、小学生のうちにスムーズな学習を阻害する「致命傷」を負い、それを持って中学・高校へと進むのは避けたいところです。
これは持論ですが、こういった「致命傷」を克服できるチャンスは学生のうちでは2回しかないと思っています。それは、小5~小6の7月までと高1の1年間です。
高1まで先延ばしにすると、もし中学受験で合格しても、中学3年間の学習の質がかなり低い状態のままになります。だから、小学生のうちに克服したいところです。
では、すでに「致命傷」を負っている場合、どのように対処したらよいのでしょうか?
方法論としては、上述の3つの致命傷をひとつひとつ修正することのできる先生に1:1指導してもらうことのみです。集団塾の中での生活で勝手に修正されることは皆無でしょう。生徒さんが自分で意識することで多少は変わるかもしれませんが、時間が経つとすぐに元に戻ることが大半です。丁寧にひとつひとつ修正してくれる存在が必要不可欠になります。(ただ、もし親御さんが時間を割けるのであれば対処可能かもしれません。)
そしてそういった存在が見つかったとしても、修正には間違いなく数か月はかかります。そう、即効性のある対処法はないんです。中長期的な視点で改善するしかないんです。だから、できる早い時期に着手して、小6に7月あたりまでに終わらせる必要があります。
なので、上述の致命傷を自分の子どもが負っていないかをできるだけ早い時期にチェックしてみて下さい。
もしまだ追っていないようでしたら、おそらくこのまま進んで大丈夫でしょう。
でももし致命傷を負っているようでしたら、対処可能な家庭教師・個別指導の先生をできるだけ早く見つけてあげて修正に取り掛かってあげてください。この場合は、受験終わりまでの契約をするのではなく、修正のために数か月~半年くらいの契約にするのが良いかと思います。塾以外の出費が痛いですが、おそらく後手後手になって小6の10~12月にすがるように頼むよりも効果的で、かつ経済的になるかと思います。
ではでは、今回はこのあたりで。読んでくださってありがとうございました。