こんにちは、慶應付属中専門の塾講師・家庭教師のたくと( @tact_roadtokeio )です。
さて、今回は前回に引き続き、「慶應付属中合格者からの質問集」の第2回目をお送りします。(第1回はこちら↓。)
今回も、過去に慶應付属3中学に合格した生徒さんが受験生時代にした質問・疑問を通して、慶應付属3中学が求めている「知性」というものについて少し考えていきましょう。
慶應付属中合格者からの質問#2 「『珈琲』っていう漢字、コーヒーのためだけに作られたんですか?」
第2回目の今回は、3年前に慶應普通部・慶應中等部にダブル合格した生徒さんが、小6の時にくれた質問です。彼はその日、教室に入ってきてすぐ口を開きました。
生徒「なんか初めて見る漢字があったよ!」
僕 「お、どこに?」
生徒「ここのビルの1階の旗みたいのがあって、そこにあった!」
僕 「あー!この漢字かな?」
珈琲
生徒「それそれ!」
僕 「これ、『コーヒー』って読むんだよ。」
生徒「あ!なるほど、喫茶店の旗だったのか!」
僕 「そうそう、2階の喫茶店の旗だよ。」
生徒「でもさ、この漢字、他のどこでも使われてなくないですか?コーヒーのためだけに作られた漢字なんですか?」
僕 「おーいい質問だね。コーヒーを題材にした問題って最近ちょこちょこ出てるし、ちょっとコーヒーについて軽く学んどこうか!」
その日の授業はそんな風に始まりました。
たぶん、大人でもほとんどの人が知らない「珈琲」という漢字の他の意味。そういう点に興味が持てるのは知的好奇心が強いからでしょう。
というわけで、今回はこの質問を題材にしてみます。
他では見たことのない「珈」と「琲」という漢字。
世界中で飲まれているコーヒー。日本でも、コンビニ、自動販売機、ファミレス、レストランなどなど、いたるところで飲むことができます。
さて、そんなコーヒーですが、喫茶店なんかではよく「珈琲」と表記されますよね。
でも、ふとよく考えてみると、「珈」という漢字も「琲」という漢字も、僕らの日常の中ではコーヒー以外ではまったく見たことがなくないですか?
なぜ、コーヒーを「珈琲」と書くのでしょう?
この疑問を解消するには、少し歴史的なことを知る必要があります。
実は「コーヒー」を表す漢字はたくさん存在していた。
時は江戸時代まで遡ります。
江戸時代と言うと、当時の日本では鎖国が行われていた時代でした。諸外国との関係性を絶っていた時期ですね。とはいえ、実際は海外との関係性を完全に立っていたわけではなく、長崎県の出島で海外とのやりとりが行われていました。
この出島に、オランダから初めてコーヒーがやってきました。
さて、オランダから伝わってきたコーヒーですが、オランダ語で「koffie(コフィー)」と発音されていました。そしてこの「koffie」を日本に広めるため、どんな漢字で表記するかという作業が当時行われました。
「可否」「可非」「架非」「黒炒豆」などなど、様々な漢字があてがわれました。実際、日本で初めてできた喫茶店の名前は「可否茶館」という名前でした。
でも、どの表記も日本で広く浸透するまではいきませんでした。
造語の天才によって作られた「珈琲」。
しかし、そこで現れたのが宇田川榕菴(うだがわようあん)という蘭学者です。
宇田川榕菴は当時、海外の学問に関する書物を多数翻訳し、数多くの造語を作っていました。少し例を挙げただけでも、以下のようにたくさんあります。
- 水素、炭素、窒素、酸素(元素の名前)
- 元素、金属、溶解、試薬、酸化、還元(化学の用語)
- 細胞、属(生物学の用語)
- 物質、法則、成分、圧力、温度、結晶(その他科学用語)
今では当たり前のように使われている上記の単語ですが、これらすべて、宇田川榕菴が作ったものなんです。なかなかすごいですよね。(なんで歴史の授業で取り上げられないんでしょうね。)
そしてこの宇田川榕菴が、オランダから伝わった「koffie」に「珈琲」という漢字をあてたのです。
「珈琲」に込められている意味。
では、なぜ宇田川榕菴は「koffie」に「珈琲」という漢字を使ったのでしょう?
それを理解するためには、「珈」と「琲」、それぞれの漢字についてちょっと知る必要があります。それぞれの読み方に注目してみましょう。
「珈」の音読みは「カ」、「琲」の音読みは「ヒ」です。なので、あわせて「カヒ」となります。「koffie」の当て字には申し分ない音感になるわけです。
そして実はあまり知られていないですが、「珈」と「琲」にはそれぞれに訓読みがあるんです。
- 珈・・・「かみかざり」
- 琲・・・「つらぬく」
この二つの意味を合わせると、「(女性の髪を)貫く髪飾り」。つまりこれ、「かんざし」を表しているんです。
コーヒーなのになぜ「かんざし」?という疑問が浮かぶかと思いますが、これはコーヒーのもととなる「コーヒー豆」が木に生っている時の様子を知っていると少し理解できます。
収穫前のコーヒー豆は、こんな風に色鮮やかに生っているんです。
これが、着物姿の女性の髪を彩る「かんざし」のように美しい、という意味を込めて、宇田川榕菴はコーヒーに「珈琲」という漢字を当てたわけです。
音感だけでなく、その美しさも内包させた「珈琲」という当て字。これは日本で広く浸透し、今でも当たり前のように使われているわけです。
最後に。
思えば「珈琲」という漢字も、初めて見たときは「なんでこんな風に書くんだろう?」って思ったものの、日常が流れていく過程で何度も見て当たり前になり、いつしか疑問を抱くことすらなくなっていたりします。
そうやって疑問を風化させて解消せずに飲み込む習慣をつけていると、いつの間にか知的好奇心がどんどんなくなっていってしまい、日常から学ぶ機会を無意識に失っていってしまうんです。
そうならないようにするために、もしくはすでにそうなってしまっていたらこれから取り戻すために、日常の中にあふれている疑問を大切にしていきたいところです。そうすることで知的好奇心を持ち続け、知性を高めていきたいところです。
ではというわけで今回はこのあたりで。
また次回、お会いしましょう。